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オウム高橋克也容疑者の逮捕について。

 今回の高橋容疑者の追跡は刑事部が中心となったと聞くが、オウム事件はもともと公安部案件だった。かつて(そして今も)公安部の不倶戴天の敵である新左翼過激派の元幹部は、この高橋容疑者の逃亡について下記のようにわたしに語っていた。

■某新左翼過激派元幹部談

「逃亡者高橋克也に関しては、経験した者にしか判らないことだが、逃亡にはかなりのエネルギーが必要とされる。わたしもかつて逃亡のミニ体験があり、また殺人容疑で指名手配された仲間の数年に亘る逃亡を“幇助”した経験がある。その経験が今回の高橋の逃亡に当てはまるか否かはよく判らないが、逃亡という日常生活とはかけ離れた体験はしたものにしか判らない“過酷”なものなのだ。

 そこで自分の体験を述べながら高橋克也の逃亡生活について想像してみたい。

 自分の経験から言えば、逃亡を成功させるには何点かの要素が必要だ。

 自分はそれを「金」つまり逃亡資金、「逃亡を補助するネットワーク」、「逃亡生活を支えるモチベーション」、「そしてそれらを駆使しての偽装」の4点に尽きるのではないかと思っている。

 高橋克也のみならず現在日本には逃亡している指名手配犯が何人もいるが、過激派とされるものたちや暴力団には組織もあり、逃亡に当たっては組織の支援が得られるので、単独犯よりは状況はいい。高橋の場合これに当てはまったのかどうかは疑問もあるが、自分は何らかの形で旧オウムの関わりがあるのではないかと思っている。
そして暴力団の場合は知らないが、過激派の逃亡者の場合、彼らはただ単に逃亡しているだけではない。彼らにとっては逃亡ではなく“地下に潜っている”だけのことである。彼らにはそれぞれ“任務” があり、彼らのモチベーションはかなり高く、それが苦しい逃亡生活の支えとなっているのである。

 また高橋を含むオウムの3人や指名手配された過激派のメンバーは何故、こうも長く逃亡生活を続けられるのか不思議に思われる方も多いと思われるが、その背景には日本の警察の能力に対する過信があるのではないだろうか。一般市民が思っているほど日本の警察は優秀ではない。いや、かなり抜けている側面があるのだ。

 先に述べた、殺人容疑で指名手配された仲間は、自分と大学が同じで同期の親しい間柄であった。当時、活動の第一線から退いていた自分をその仲間は、全国指名手配される前日に訪ねてきて、事件についてその詳細を語ってくれた。その夜、彼と自分は遅くまで語り合い、翌日の昼過ぎ帰っていった。その後、喫茶店で遅い朝食をとっていた自分は見ていた新聞の記事に目が釘付けになった。なんとさっきまで一緒にいた仲間ほか数名が殺人容疑で全国指名手配されていたのであった。

 その男は、所属する過激派の幹部であり自分と実に近い関係にあったことは、当然警察も掴んでいたはずである。だが、当日はもちろん、その後も自分に対する事情聴取は一切行われなかったのである。それだけではない。その数日後、自分のところに彼とは別の指名手配者数名を数日間か匿ってくれと依頼があり、近くに住む友人に頼み3名を数日間匿った。この時も警察の動きは一切無かった。自分をマークしておれば一網打尽に出来たのにも拘らず……。

 そして極め付きがあった。先に述べた自分の友人は1年後に接触してきた。彼は同じ大学、同期であることから自分との接触は1年間我慢したのである。

 そして、彼は以後の逃亡生活に対する援助を要請してきた。そして、新たなるアジトを構えるまでの数日間、自分のアパートに潜んでいたのである。そんな時ハプニングが起きた。自分と連れ合いが働きに出た後、なんと警官がアパートに訪ねてきたのだ。その時、彼はこのアパートローラー作戦に参加していた警官にまともに対峙したのである。その時彼は、アパートの借主の従兄弟であると名乗り、しつこく事情聴取を迫るその警官を罵倒さえしたのである。然るに、この間抜け警官はこの人物にほとんど疑いを抱くことは無かったようである。以後自分に対する再聴取も無かった。もちろん、自分は万一を考え、彼を別の友人宅に退避させたのだが……。
つまり、日本の警察官は上から指示された事しかやらないようである。想像力はほとんど無かったように思う。この警官が自分のデータと照らし合わせて事情聴取を行っていたら、すぐさま対応した男が指名手配犯であることに気づいていただろう。彼は自ら褒章のチャンスをふいにしたのであった。

 この一件からも、一部かもしれないが日本の警察官がいかに間が抜けているかが判るであろう。

 長期の逃亡生活には“なりすまし”がなにより重要である、実際オウムの3人も他人の住民票を使うなど他人に“なりすまし”て、これまで十数年に亘る逃亡生活を続けてきた。もし、彼らが何らかの形でオウムの支援を受けていると仮定すると高橋の再度の“なりすまし”は可能であったと思われる。
 その第一の要素は、世間のほとぼりが冷めるまで、潜伏できるアジトの存在が不可欠である。自分の場合でもそうだが、警察権力が旧オウムのメンバー、そして裾野に位置するシンパまでどの位把握しているかが大きな鍵となる。

 また、オウムが武装蜂起を企てていた段階でそれなりの“草”(非公然の協力者)を用意していた可能性も排除できない。“草”と普通の市民を峻別するのは優秀な警察官を持ってしてもかなり困難なことである。ましてや間が抜けたのが少なくない日本の警察では不可能だったろう。

 そこで“なりすまし”である。

 自分の場合は、親の名義で都内某所に小さな一軒家を借りた。名目は、自分がアルバイトで関わっていた設計事務所の下請け事務所兼住居ということにした。そこで30前後の男達が出いりしても奇異には受け取られなかった。不動産屋も下請け実績などを示すと簡単に信じた。そして出入りには製図を入れた筒などを常に携帯する様に注意した。それでも警察のローラーを受けた時のため地下に穴を掘り、彼を隠す部屋を用意した。一軒家の物件を探す際、土の地面にじかに立っている物件かどうかに留意した。このアジトは2年ほど暮らしたがその間、危険な兆候は皆無だった。このアジトは指名手配者の組織での任務が変更されると供に閉鎖されたのだが……。

 つまり、“なりすまし”は協力者がいれば、さほど困難なことではないのである。そして人間の記憶は時がたつに連れ手薄れる。つまり“ほとぼり”は、いつかは冷めるのである。もう捕まってしまったが、もう少し高橋が逃亡することに成功していれば、協力者のアジトに2年ほど潜み、ほとぼりが冷めた頃、新たな人格に“なりすます”し、普通に市民生活を送るのはそれほど困難なこととは思われない。

 問題はこれを可能にするネットワーク、もしくは“草”の存在である。もし“草”が存在したら高橋の発見はかなり難しいこととなっていただろう。しかし、元オウムのメンバーの看護師と一緒に暮らしていたのを警察は見落としていたことを見ても、ある程度の潜伏生活は可能だったかもしれない。

・モチベーシャン、何のために逃亡するのか

 さて長期の逃亡生活にはもう一点不可欠な要素がある。それはモチベーションである。菊池が逮捕時に呟いた「もう逃げずにすむ」と言う言葉は本音であろう。長期の逃亡生活、そして“なりすまし”は精神的にかなりの負担が掛かるのである。

 オウムの場合はどうか知らないが、過激派の場合は少し様相が違う。過激派の場合、逃亡はすなわち“地下に潜る”ことであり、革命家にとっては、いわば「望むところ」でもあるのだ。

“地下潜行者”はじっと隠れているのではない。地下に潜りながらも組織と連絡を保ち、資金などの補給も受け、指令された任務も完遂するのである。それに彼らは何より逮捕を恐れない。逮捕はあくまで活動の結果に過ぎないのである。つまり彼らにとって“逃亡”はそれが目的ではなく手段に過ぎないのだ。

 しかし、一度組織が崩壊したり、足場が無くなると、この構造は即座に壊れる。日本本国にほとんど足場の無かった日本赤軍の丸岡や重信が半ば出頭と言う形で逮捕されたのがその実例である。

 では高橋になおも逃亡を続けるモチベーションがあったのか。それは現段階では何ともいえない。尊師こと麻原の罪状の軽減のための逃亡だとしたら、麻原への帰依の度合いが問題とされるだろう。菊池の場合、どうも麻原への帰依が薄れてきたかの様子が垣間見えるが高橋の場合はどうであろうか。

 もう一つの可能性はかなり妄想だが、武装蜂起を夢見るオウムの残党が未だに存在するケースである。もしかしたら穏健派を装っているアレフに“地下組織”があるのかもしれない。もしそうだとすれば、そして高橋克也がそのメンバーであるとしたら、高橋のモチベーションは維持できたであろうし、この場合彼を捕捉することはかなり困難なことになっていたのかもしれない」(元過激派幹部談)


 早期の逮捕で安心しているのは警察関係者はもちろん、彼らの動向を追いかけましていたマスコミ関係者だったと思う。オウム最後の逃亡者の顛末は、これからさらに明らかになっていくことだろうが、なにかもの哀しい感じもしなくもない。

「逃亡者」などという立場にはなりたくないものである。


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No title

高橋容疑者が逮捕されて警察は胸を撫で下ろしているでしょうね。
然し、多くの謎に包まれたオウムの全容は闇の中です。
逮捕された3人の逃亡犯から、どれだけ真実を引き出せるのか、本番はこれからでしょう。
麻原の呪縛が解けない高橋容疑者がどこまで話すかは未知数ですね。

家族

逃亡し続けた高橋容疑者が逮捕されたニュースの中に、高橋容疑者の家族のコメントがありました。『ずっと休めなかっただだろうから、休んで欲しい・・』あきれ果ててしまいました。
そう思っても、沢山の被害者のことを思うとそれは心の中にしまっておくべき話、この逃亡犯にこの家族あり・・そう思いました。
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小野登志郎

Author:小野登志郎
職業 ノンフィクション・ライター。ハードボイルドに疲れてきた三十路後半男。枯れていくばかりの人生を楽しむことにします。

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