総額300億円以上を荒稼ぎしてきた国際強盗組織の摘発である。
「東京・銀座の貴金属店で2007年、2億円相当のダイヤモンド製ティアラ(王冠型髪飾り)などが奪われた事件で、警視庁組織犯罪対策2課は13日、強盗致傷容疑などで、国際強盗団「ピンクパンサー」構成員ハジアフメトビチ・リファト容疑者(42)=モンテネグロ国籍=を逮捕した。
同容疑者を拘束していたスペイン警察当局から身柄引き渡しを受け、マドリードの空港を出発した機内で逮捕。外交ルートで交渉し、同国側が応じた。
同容疑者は現地に派遣された捜査員らとフランス経由で入国し、14日午後、警視庁築地署に移送される予定。
同課によると、日本と犯罪人引き渡し条約がない国からの外国人容疑者引き渡しは、1970年に背任事件で在日韓国人をフランスから移送して以来、2例目という」(時事通信)
日本とスペインの捜査員(外務省も)が相当の折衝を重ねた上で、機内での逮捕に至ったと思われる。先の中国での「振り込め詐欺」団の摘発もそうだが、最近の組対部二課の動きは派手である。犯罪のグローバル化に対応して、いろんなルートを使っているのだろう。
最近取材をしていて感じているのだが、日本の官庁組織は、組織間の壁や限界を「出向システム」を最大限利用することで補完し合っているように思える。例えば、警察庁から外務省へ、厚生労働省(麻薬取締部)から財務省(税関)へ、など。肩書は変われど、任務や目的は同じで、各省庁の利点を活用しているみたいだ。
今まで私は、国家というものをマクロ(というか大ざっぱ)にしか考えてこなかったので、複雑に細分化された権力機構のバランス配分みたいなものを見聞きすると、とても新鮮に感じてしまう。犯罪の最先端を追う司法機関の後手後手ぶりもついつい見えてしまうが、その追いかけ方も、少しずつだが洗練されていってるようにも思える。
昨日、渋谷のオサレなバーで編集者Dと遅くまで話したのだが、闇社会の最先端に警察が追いついたら、闇社会の住人も商売ができなくなるわけで、現在進行形の闇社会は、常に警察の先を行っているわけである。このある種の創造性をもって「犯罪者はアーティストである」と言う人もいるが、価値中立的に考えればその側面は否定できない。これはジャーナリズムも同じで、原理的、本質的に、闇社会に追いつけないものだと言える。稀についつい追いついてしまったものを本当の意味で「スクープ」と言うのかもしれないが、なかなかそう簡単にいくものではない。警察もジャーナリストも、幾度も築いては流される、海辺での砂の山を築く作業を続けるしかないのだろう。
現在進行形のノンフィクションを書く上で、この原理的、本質的な不可能性を踏まえて、なにをピックアップしどのように記述するか、いつも考えてはいるけれど、全然答えが出ていない。結局「難しいよねぇ」で渋谷の夜を終えたのだが、たぶん何十年も世に残る作品は、過去、現在、未来を貫いているんだろうと思う。そういうものがいつか書ければなぁと思いながら、蒸し暑い昼下がりを悶々と過ごしている。
とにかく、世界を股にかけた「ピンクパンサー」という少しレトロな名称の国際強盗団は、鈍いながらも着実な国家間の連携プレーの前に敗れ去り、その使命を終えた。そしてまた、世界のどこかで、誰かが、誰にも気づかれずに新しい国際犯罪を組織しているのだろう。心の弱い私にとっては、眩暈を覚える現実だ。
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